#73 関本海渡、ポルトガル・ナザレへ  第一章「大波の記憶」

Posted on : July.23.2025

個性溢れるHurleyライダーの中で、ビッグウェーブにフォーカスし、サーフィン道を追求している関本海渡プロ。そんな彼が昨年の冬に目指したデスティネーションは、想像を絶するモンスターウェーブがブレイクするポルトガルでした。そこで体験した究極のサーフィンの模様を、本人の声を交えてお伝えします。

世界一の大波への誘い

2024年12月4日。関本海渡は成田国際空港を旅立った。ドバイを経由して、ポルトガルのリスボンへ。最終目的地は、あの世界記録のビッグウェーブが割れる地、ナザレだ。

きっかけはカメラマンでありフィルマーであるペドロ・ゴメスから届いた一本のテキストメッセージ。

「ポルトガルのナザレにいるよ」

ナザレの存在を知ったのはいつだったか。初めて映像で見たときは、山のようなデカい波という印象だった。崖の前でブレイクする、雪崩とでも形容すべきとてつもない波。 ただ、波の形は三角で、マウンテンピークだった。そこをジェットスキーに引っ張ってもらって波に乗るトゥインサーファーが滑り落ちていく。今までのパドリングでのサーフィンからは考えられない別世界のサーフィン。

「やっぱりサーファーなら一度は乗ってみたい。いけるかどうか実際にこの目で確かめてみたい。トゥインサーフィンはやったことなかったけど、そう感じる波でしたね」と海渡は振り返る。

ペドロとはハワイ・ノースショアなどのビッグウェーブスポットで顔を合わせる仲だ。海渡が大きな波を好み、チューブライディングを得意とすることは当然知っていた。だからこそ、先に現地入りしていたペドロは、ビッグウェーブがやってくることを知った上で海渡を誘ったのだろう。

そして、その誘いに応えるようにして、海渡はわずか10日後にはパスポートを持って家を出ることになった。

「事前にそれほど情報を集めたわけじゃなくて、即興で決めた旅でしたね。スモールウェーブからチューブのホレた良い波用まで、普通のショートボードを3本持って行って、トゥインボードは現地で借りることになっていました。他にペドロがジェットスキーとかインパクトスーツとかを現地で調達できるようヘルプしてくれるって話してくれていましたけど、準備したのはそれくらい。『せっかくのチャンスだから行こう』って感じで、まさにアドリブでした(笑)」

初めてのトゥイン・セッション

リスボン。ポルトガルの首都であるこの都市に1人で降り立ち、まずはレンタカーをした。そこから北へ走ること1時間40分。長旅を終えてナザレの街に着いたが、最初はどこがサーフポイントなのかわからなかったという。ようやくポイントを探し当て、海を見てみると、コシ〜ハラ程度の波が割れている。 (なんか日本っぽいな…) 海側に松の木が生えている雰囲気などを見て、海渡はそう思ったという。

到着から2日後。海が目に見えて動き始めた。サイズはアタマ半からダブル弱。思ったよりもホレていて、サンドバーでチューブも巻く。ハワイ・ノースショアのオフザウォールのような波だった。

「まさかナザレで、こんなチューブをパドルでやれるとは思っていなかったですね。波の角度も良くて、ライトもレフトも乗れました」

波のパワーと向き合いながら何本か乗り、翌日にはいよいよ初めてのトゥインサーフィンを経験することになる。

6〜8ft。いきなりとてつもないビッグウェーブというわけではなかったが、トゥインの練習には最適のサイズと言えるだろう。それでも普段のパドルのサーフィンとはまるで違った。

まずは練習したのはレスキューの方法だ。ライディングが終わってジェットが迎えにくるときを想定して、ジェットの後ろに乗る練習を沖で行う。右からジェットが来るパターン、左から来るパターン。念入りに確認してから、本番へと向かった。

「想像以上に体力を使いました。腕も足も体幹も。ジェットスキーで引っ張られているときの体勢、バランス、ボードの上での動き。全部違いますね」

波に乗って沖に戻ると、割とすぐにロープを持って、次の波へと向かっていく。ウェイクボードのようなスタートの形を取り、そこからジェットスキーに引っ張ってもらって立ち上がる。水の抵抗があるので、そこが最もパワーを使う瞬間だ。立ち上がってからも、ずっと沖で走りながら乗る波を見極めることになり、さらにはパドリングでは考えられないほどのスピードがあるので、波のバンプに耐えなければならない。十分な体力が必要となるのは明らかだった。

自分で乗る波を選ぶわけではなく、ドライバーが選ぶというところも不慣れな理由の一つだった。うねりから乗るので、パドリングでのサーフィンとはライン取りも当然異なる。結局、わずか1時間のセッションで乗ったのは20本ほど。良かったのは3、4本といったところだ。だが「心身ともに消耗した」と海渡。そして、ときにワイプアウトすれば、リーシュがないぶん、ボードは流れる。ジェットスキーが拾いに行くのも一苦労だ。

「これくらいのサイズだと、波と波の間隔が狭いからレスキューしづらくて、ジェットも座礁しやすくなるんです。でも程よい緊張感を持ってやれたし、ワイプアウトしても経験値のあるサイズだったし、揉まれたことによってだいたいの波のパワーは感じることができました」

恐怖は、行かない者の中にある

迎えた最終日。

朝は不穏な静けさが海に漂っていた。風はオフショア。サイズは上がりそうで、上がらない。そのまま午前中をやり過ごし、昼ごろに再度、海を見に行くと、明らかに様子が違った。

セットは18〜25ftか。ナザレの沖でブレイクするビッグウェーブ。とはいえ、サイズのわりに波の形は整っている。

「波のクオリティは高かったですね。うねりのアングルもいいし。いいトゥインデーだと思いました。自分自身のメンタルも充実していたし。ただ、見たことのないうねりの太さでしたね」

最終日にふさわしい波と言えるだろう。

10本ほどの波に乗った中で、1本だけ、記憶に残る波があった。ライトにブレイクする波。トゥインでテイクオフし、そのまま深いチューブに包まれる。

「今まで入ったチューブの中でも、あれが一番大きかったと思います」

出口にかかったところでリップに潰され、そのまま吹っ飛ばされた。セクションは浅く、2段ボレしていた。

「海面に叩きつけられる感じで。あの瞬間はちょっと意識が飛びそうでした」

それは、この旅で得たものを象徴する波だったのかもしれない。

「実際に行ってみて、初めてわかることがある。映像で観て、頭で想像して、やってもいないうちから怖がっていたんだなって。ナザレの波は確かに怖いけど、もっと怖いのは、自分の中にある“見えない恐怖”だったんだと思います」

今回の旅ではこの最終日が最大サイズだったが、巨大なうねりが入ったときにはこの数倍ほどにまで膨れ上がる可能性があるという。次に訪れたとき、そうした80ftクラスのモンスターウェーブが襲来するかもしれない。 だが海渡は、次もまた、同じように海を見て、風を感じ、肌で何かを判断するのだろう。

「やることは同じなんですよ。ただ、失敗が許されなくなるだけ。だからまた、準備をして、いい波を待って、次の冬に行きたいと思っています」


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