2025年のマスターズは、ジャスティン・ローズ選手をプレーオフの末に下したロリー・マキロイ選手の優勝で幕を閉じました。今大会を見たゴルフファンの中には、「今までのマスターズで一番感動した」という感想を持った人が多くいるようです。今年の大会はなぜそれほど人々の心を打ったのでしょうか。優勝したマキロイ選手の経歴や彼が10年以上も背負い続けていたプレッシャーの正体、最終日に幾度となく訪れた試練を知ると、その理由が分かります。
年間王者&賞金王を6度も戴冠
北アイルランド出身のロリー・マキロイ選手は2007年にプロ転向し、2009年の欧州ツアーでプロ初勝利を挙げたプレーヤー。PGAツアーでは翌2010年に初優勝を飾り、2012年には22歳10か月で世界ランキング1位に登りつめます。タイガー・ウッズ選手の21歳5か月に次ぐ年少記録でした。
順調にキャリアを積み重ね、2016年、2019年、2022年にPGAツアーの年間王者を獲得。欧州ツアーでも2012年、2014年、2015年に賞金王に輝いています。
その実力はメジャー大会でも発揮されました。初めてのメジャー制覇は2011年の『全米オープン』。翌2012年は『全米プロ』で勝利し、2014年は『全英オープン』と『全米プロ』で複数回優勝も達成しています。
四大メジャー制覇を制覇した伝説のプレーヤーたち
『全米オープン』、『全米プロ』、『全英オープン』を制すると、マキロイ選手には四大メジャー大会すべてで優勝する「キャリア・グランドスラム」の期待がかかります。今年の『マスターズ』前までは、達成者はジーン・サラゼン、ベン・ホーガン、ゲーリー・プレーヤー、ジャック・ニクラウス、タイガー・ウッズの5人のみ。2000年にウッズ選手が達成して以来、実に25年間も“6人目”が生まれていない状況でした。
マキロイ選手が「キャリア・グランドスラム」に王手をかけたのは2014年の『全英オープン』のこと。つまり、11年間も「『マスターズ』で勝てば偉業達成」というプレッシャーの中にいたことになります。
4打差首位で最終日を迎えながら「80」を叩いた2011年大会
『マスターズ』でなかなか勝てなかったマキロイ選手ですが、これまでチャンスがなかったわけではありません。印象深いのは2011年大会です。
当時メジャー未勝利だったマキロイ選手は、2位に4打差の単独首位で最終日を迎えます。しかし、出だしの1番をボギーとして10番では、なんとトリプルボギーを叩いて優勝争いから脱落。結果、「80」でホールアウトして15位タイに終わりました。
2011年大会以降もチャンスは巡ってきます。2015年大会は4位、2018年大会と2020年大会は5位タイ、2022年大会は2位。健闘するもののあと一歩のところで決め切れず、偉業達成への“足踏み”が続いていました。
最終日は「足がゼリーのようだった」というほどの緊張状態
そんな中、今年の大会で再びチャンスを掴みます。『マスターズ』の1か月前に行われた“第五のメジャー”といわれる『ザ・プレーヤーズ選手権』で優勝し、上り調子で臨んだ2025年大会。3日目を終えて2位に2打差の単独首位に立ちました。
最終日の朝、マキロイ選手は今までにないほどのプレッシャーを感じていたといいます。「胃がキュッと締め付けられて食欲がほとんどなかった。足がゼリーのようだった」とこの時の様子を振り返っています。
極度の緊張状態の中、本来の“らしさ”を発揮できずにゲームを進めることに。ティショットからアイアンショット、アプローチまで、球が右に抜けるシーンが何度も見られました。
数々の試練を乗り越えて掴んだ栄冠
1番をダブルボギーとしてスタートで2打のリードを失い、2番では早くも首位の座を明け渡す展開に。「2011年大会の悪夢」がよぎりますが、3番、4番、9番、10番でスコアを伸ばし、本調子ではないながらも一時は5打差の首位に立ちました。しかし、この後大きな試練が訪れます。13番パー5の3打目。80数ヤードのアプローチが右に抜けてクリークへ。ダブルボギーで猛追するジャスティン・ローズ選手に並ばれてしまいます。
17番のバーディで再び単独トップに立ちましたが、18番のセカンドショットをまたもや右にミス。バンカーに入れてボギーとして、勝負の行方はローズ選手とのプレーオフに持ち込まれました。
この日は右にミスするシーンが何度も見られたマキロイ選手でしたが、プレーオフの2打目は力強い球筋でピンそばにピタリ。1.2メートルにつけてバーディパットを沈めました。ウィニングパットを決めた直後、マキロイ選手はその場にうずくまり、肩を震わせました。重くのしかかっていた重圧から解放された瞬間です。このシーンは、多くのファンに夢と感動を与えました。今大会のマキロイ選手のプレーは、今後何年も語り継がれていくマスターズの伝説のひとつになっていくでしょう。