#77 関本海渡、ポルトガル・ナザレへ  第二章「道具への信頼」

Posted on : September.18.2025

ビッグウェーブを主戦場として、国内外の大波に挑むHurley契約サーファー、関本海渡プロ。そんな彼が昨年の冬に初めてチャレンジしたポルトガルのナザレの記事を、本人の声とペドロ・ゴメス氏の写真を交えてお伝えしていきます。今回は連載の第二章です。

ずっしりとした重量感

2024年冬。関本海渡がポルトガル・ナザレで挑んだのは、世界最大級の波だけではなかった。そこに立ち向かうための道具との格闘でもあった。

このとき、海渡が日本から持ち込んだのは、パドリングで波に乗るための2本のショートボード。6’0″のラウンドピンテールと、ビーチブレイクの小波用に作られたカーボン巻きのツインフィンだ。だが、ナザレの本番で必要となるトーインボードは現地で借りることになった。ジェットスキー・ドライバーのタティアから受け取ったのは、5’8 1/2″のボード。重さは約4kg。手にした瞬間、そのずっしりとした重量感に驚かされたという。

ナザレには専用の”ナザ・ト―”と呼ばれるボードも存在する。7〜8kgにもなるその重さは、巨大な波と強烈なオフショア、そして凹凸とした海面を切り裂くために不可欠だ。海渡は「重いからこそ突き抜けてくれる。無駄のない最低限の浮力で、スピードとコントロールを両立するデザイン」と語る。さらに、足を固定するストラップによって反応は鋭くなるが、対応を誤れば一瞬で弾き飛ばされる。その緊張感こそが、トーインならではの特性だった。

似て非なるトーインボード

ストラップのセッティングにも工夫があった。接続部は限界までネジを締め込み、足を差し込む部分もきつめに調整。フィンはフューチャーフィンをベースに、通常のショートボードと変わらないセッティングを使用したが、状況によっては小型のクアッドフィンを使うこともあるという。テールデザインはスワロー、ムーンテール、バットマンテールなど独特の形状が主流だった。

「普通のサーフボードと同じはずなのに、ストラップで足が固定されているだけでまったく違う感覚になる。最初は違和感しかなかったけど、何本か乗ったら逆にやりやすさを感じた」と海渡は振り返る。ボードの強度も重要だ。大波とスピードに耐えられなければ一瞬で破壊される。ナザレにおける道具は、その存在自体が命綱だった。

ただし、そのリスクもまた大きい。ストラップに固定された足首や膝には常に負担がかかる。ワイプアウトの衝撃でストラップから足が抜けずに引っ張られれば、大怪我につながる可能性もある。実際にカリフォルニア・マーベリックスでは、ストラップが原因で足首を複雑骨折したサーファーもいたほどだ。「うまい人でも一歩間違えれば怪我をする。だからこそセッティングは自分に合うように追い込まないといけない」と海渡は言う。ブーツの厚さ一つでも、フィット感は大きく変わるのだ。

次のシーズンに向けて、海渡はすでにカスタムオーダーのボード準備を進めている。ディメンションは5’8″前後。幅は18インチを切り、厚みは2 1/6インチほど。無駄を削ぎ落とし、自身の体格に合わせた一本を作るつもりだ。「この前、借りたボードは持ち主が自分よりも大柄だったので、調整は必要。自分に合う一本を現地のシェイパーに頼んで受け取る形になると思う」と話す。



適切な道具のチョイス

ウェットスーツについては、このとき専用のものを用意していなかったため、大きめのジャーフルを持参し、インパクトスーツやPSI(パーソナル・サーフ・インフレーション)ベストと重ね着して対応した。水温は湘南の冬よりやや高い程度だが、風が冷たく、フードやブーツは欠かせなかった。だが次回に向けて、すでにナザレ専用のスーツを2着用意している。フード付きとフードなし、それぞれオール4mmのジャーフルで、インパクトスーツを内蔵した仕様だ。重ね着は2層で済むようになり、動きやすさも大きく改善されるはずだ。

さらに重要なのが、現代のビッグウェーブ・チャレンジの際に必須となっているPSIの存在だ。ベスト型の浮力装置で、胸元の紐を引けば瞬時に膨らみ、水面へと浮かび上がる。「実際に膨らませたことはまだないけど、本番で一本目の波で巻かれたら迷わず引っ張って膨らませると思う」と海渡は語る。ベストには複数のガスカートリッジが搭載され、状況によっては繰り返し使用可能だ。価格は20万円前後と高価だが、命を守るためには欠かせない装備である。

日本でもテストを重ねたが、本番のナザレでしかわからない部分も多い。だが一つ確かなのは、これらの道具がなければ、巨大な波の前に立つことすらできないということだ。

「次はもっと自分に合ったボードとスーツで挑むつもり。やることは変わらない。ただ、失敗が許されないだけ。だからこそ、準備を整えてまた冬に戻りたいと思っています」

次のシーズン、関本海渡が手にするのは、自らの経験から導き出された最適な道具たちだ。その一本、その一着が、ナザレの海で新たな記憶を刻むことになる。








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