#34 糟谷修自が見据える日本サーフィン界の未来

Posted on : September.05.2023

長年、日本のサーフシーンを見届けてきた糟谷修自氏。若い頃から積極的に海外で修行をし、現在はハワイで暮らしています。だからこそ見えてくる日本人サーファーの可能性と課題について修自氏に聞いてみました。

世界レベルのハードル突破へ

―現在の日本のコンペシーンをどう見ていますか?

「まず、コロナになってから試合に出たくても出られない状況になりました。そして今は、世界各地で行われるクオリファイングシリーズ(QS)に出てポイントを稼ぐというよりも、国や地域のQSに出場してポイントを積み上げていくシステムに変更されています。国や地域ごとのランキングで上位につけた選手がチャレンジャーシリーズ(CS)に行くことができるわけですが、ツアーを回れる選手がCS、そしてチャンピオンシップツアー(CT)に近づけるという構造かなと思います。もちろんもっと日本人にはツアーを回って、CTにクオリファイしてもらいたいという気持ちはありますが、同時に世界のレベルはどんどん上がっています。コロナのせいと言えるかどうかはわからないですが、世界のレベルに遅れず、食いついていかなくてはならないと感じていますね」

―日本生まれの日本人サーファーがCTに入った実績はほとんどありません。これについてどう考えていますか?

「厳しく言えば、世界はそんなに甘くないなという感じじゃないでしょうか。これは、昔も今も変わりません。例えなんとか一度CTに入れたとしても、いろいろとわからないことが多いと思いますし。エクイップメント、コーチング、トレーニングに加え、海外での経験値も大事になってきます。自信も必要になるでしょう。でも、日本人に限らず、誰もが時間をかけないと上にはいけないんですよ。いきなり出てきてトップ10に入るっていうのは無理な話。成績のアップアンドダウンがないようにして、コンスタントに良いリザルトを残すというのは難しい。日本人にとっては言葉の壁も立ちはだかりますから。同じ日本語でも伝わらないことがあるのに、英語ならなおさらですよね。それが不安要素にもなりえます。フィリッペ(・トレド)を見ていても、家族で移住して急激に英語もサーフィンも上手くなった印象です。自分の近くに一流のシェイパーがいて、コミュニケーションが取れるのも大きい。サーフボードはサーファーにとって命ですから。F1に例えるならば、サーファーにはレースだけに集中してもらいたい。あとは製造するメーカーがいい仕事をするだけ。そうすれば結果に繋がってきます。シェイパーとの密なコミュニケーションは大きいですよ」

―CSができたことによって、日本人にはCT入りの可能性は低くなったと感じていますか?

「CSというのは、結局は前のQS10,000ですから。そう考えれば、ハードルは上がった感じはしますよね。CSを回ることのできる人数が限られるので。CT入りするための大会は、以前ならある程度選べましたが、今は選べません。CSを勝ち上がるしかない。ただ、トータル的に見てCT入りできる選手というのは、結局チョープー、パイプ、ウエスタンオーストラリアなど、狂骨な波で結果を残さないといけないといけないんですよ。それは以前と変わっていません」

真のアスリート、真のスポーツへの昇華

―2021年に東京2020オリンピックが開催され、初めてサーフィンがオリンピック競技に加わりました。これについてはポジティブに捉えていますか? 日本のサーフィンという意味において、どう影響したと思いますか?

「すごく良かったと思っています。サーフィンがオリンピックに組み込まれ、ましてや日本が舞台。その中で日本人選手が出場しました。世界の選手と同じ土俵に上がって勝負ができたというのは、それがきっかけになって若い子たちに良い影響を与えたんだと思います」

―パリオリンピックが来年に行われます。しかもタヒチが舞台です。

「タヒチはフランス領ですからね。最初に聞いたときは『本当なの?』という気持ちはありました。フランス本土のビアリッツとかホセゴーとかで開催されると思っていましたからね。意外なところに持ってきたなという印象。求められる選手の技量も違うし、かなり本気な場所に決めましたよね。もちろん観る方としてはおもしろくなるとは思います。ただ、スキル的にどうなのか…。CT選手なら会場となるチョープーの波は慣れていますが、海外の選手がいきなりチョープーっていうのは、かなりハードルが高いですよ」

―昔はサーファーといえばアスリートという認識が薄かったように思います。今後、日本人のサーフィンの方向性はどういう形で変化していくと思いますか?

「サーファーの意識が他のスポーツに近づいていくと思います。トレーニングとかエクイップメントに対する考え方とか。自分がハワイにいて思うのは、世界レベルに到達するには積極的に海外へ出ていかないといけないということ。試合の隙間を縫ってフィジーやタヒチといった場所で練習していかないと。そうしないと、例えCTに入れたとしても道具や波への対応などの問題が出てくると思います。CTに入るという目標があるのであれば、CT入りする前にスキルアップをしておくべき。いきなり本番で良い成績を残すのは無理なので。今トップで活躍しているサーファーも、若いうちにいろんなところで練習してきました。そういう経験が若いうちにできるかどうかが日本人にとってターニングポイントではないでしょうか。だって、(南アフリカの)Jベイでさえ、良い波に見えてもクセがありますから。(オーストラリアの)ベルズだってそう。上手く乗りこなすのはすごく難しい。だから、時間とお金が許す限り、そういうところで練習しないといけないと思います」

日本人サーファーの可能性

―日本のサーフシーンがどうなって欲しいと願っていますか?

「もちろん世界レベルにもっと近づいて欲しいですよ。アメリカ、オーストラリア、ブラジルみたいになって欲しい。今はそういった国に近づいてきているけど、まだ少し足りないという印象です。世界はどんどん前に進んでいっているので。なんとか日本人もその流れに食らいついていってほしい。可能性は多くないけど、少しは日本人が入る隙間はあると思いますよ。ただ、日本人じゃなくてもCTに入るには10年くらい時間がかかります。それまでいくらお金がかかるんだろうって思っちゃいますけどね…。とにかく世界のレベルに食いついていく日本人が出てきて欲しい。いろんな意味で恵まれていないと難しいかもしれません」

―今後、日本人が現在のブラジル人のようにコンペの世界で活躍するには、どうしたらいいと考えますか?

「昔はカリフォルニアやオーストラリアに行って修行していましたが、次は修行先がブラジルに変わってくるかもしれませんね。ブラジル人のように活躍するには、ハングリーさが必要だと思います。選手側も応援する側も、世界レベルがわかっていないといけない。井の中の蛙じゃダメですね。ハングリーに世界へ出ていかないと」

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