トップサーファーとして高い認知度を誇りながら、30代半ばに差し掛かり、セカンドキャリアを見据えた活動を積極的に行っている河村海沙プロ。湘南・鵠沼出身で、父親もプロサーファーという生粋のサラブレッドは、どんなゴールを見据えているのでしょうか。一つ一つの質問にじっくりと考え、丁寧に答えるその姿は、コーチとして選手たちからの信頼が厚いことを裏付けるものでした。
サーフィンへの多角的なアプローチ
――2017年以降にサーフコーチングをスタートし、今はサーフコーチングがメインの活動の一つとなっていると思います。他にはプロサーファーとしてはもちろん、サーフショップRiver Villageの経営、YouTuber、一般サーファー向けのサーフレッスンも行っています。スケジュールを管理するだけでも大変だと想像するのですが、活動の主軸はこれと決めているのでしょうか?
「サーフショップが4割くらいで、コーチも半分くらいですかね…。でも、実際には『これ』というのはないんです。結局、YouTubeをやるにしても海にいてサーフィンをしているわけだし、自分がコーチングする場合でも海にいて撮影をしているわけだし。常に海にいるスタイルを取れるようにしていて、全部がつながっているんですよね」
――プロサーファーとしても活動している以上、誰にも負けたくないという気持ちは常に持っていると思います。そんな中で有望な若手のプロサーファーをコーチングして、場合によっては教え子と対戦する可能性もあるわけですよね?どういう感情ですか?
「前に教え子と対戦したことがあって、自分が教えたことで自分が負けちゃったんです。もちろん自分が負けた悔しさはある。でも教え子が『こういう勝ち方ができるようになったのか』っていう、なんとも言えない感情になりました。もちろん悔しい感情の方が大きいんですけどね。僕は負けることがとにかく嫌。自分が選手でやっていても、コーチングをやっていても、負けたくない。だから、絶対に勝てるようにやっていくんです」
――自分がコーチングしているプロサーファーが良い成績を収めたときの喜びと、自分のプロサーファーとしての成績が良かったときの感情は、どう違っているのでしょうか?
「昔は自分が一番でした。最近はコーチングが自分の中でかなりの割合を占めていて、若手の育成にも力を入れています。だから、今は教え子が勝って、成長していく様子を共有できるのが大きな楽しみです」
選手兼コーチとしてのメリットとジレンマ
――海沙プロのように現役とコーチを兼ねている人はあまりいないですよね。
「そうですね。最近は現役の活動は減ってきているんですけれど、でも僕が選手としてでも、コーチとしてでも、同じ海に入ることでメリットがあるとも思っています。同じことを感じられるし、海の流れとか波の割れ方とか、コンディションをもっと詳しく理解することができる。実際に戦っている教え子に近い感覚でアドバイスできるんじゃないかな。もちろん自分が選手として試合で勝てれば、教え子にもそのメソッドが伝わりやすいですよね。フィールドコーチっていうのかな、現場を知ることは大事なことなので。陸から見ているときだけよりも、海に入ることでもっと貴重な情報を伝えられるというのは、僕のアドバンテージの一つだと感じています」
――コーチングをしている中で、自分のサーファーとしての感覚と、選手が感じているフィーリングが異なっていることもあるかと思います。そんなときはどうやってコーチングをし、選手とコミュニケーションをしていくのでしょうか?
「これは僕の中の大きなテーマの一つですね。僕は教え子に対して結構ポジションの指示をするんですけれど、例えば僕が右に動くように指示しても、左に動いたり、まったく動かなかったりする選手がいます。僕がそういう指示をするときって、自分自身の直感やヒートの流れを読んで、絶対にそうした方がいいっていう場面に限られるんです。でも、実際のヒート中に選手とのコミュニケーションが上手くいかないときは、ヒート前に情報をもっと共有していたら良かったとあとで反省しますね。僕自身、波を見極める能力には自信を持っていて、選手と協力しながら、お互いを信用して、持っている力以上のものを出せるようにしたいと思っています」
――ということは、試合後にも選手と密にコミュニケーションを取って、試合を振り返りますか?
「何人か同時に選手をコーチングしているときは、試合後すぐに細かい話をすることができないこともありますけど、基本的には納得いくまで話し合います」
――直近では、8月にモルディブで行われたアジアサーフィン選手権で、代表コーチとして帯同しました。普段、コーチングしたことのない選手が多数いましたし、選手ひとりひとりで得手不得手が異なると思います。こうやって代表コーチとして帯同することの難しさはどんなところでしょうか?
「何名かはその前のエルサルバドルでの大会でもコーチングさせてもらったんですけど、それでもモルディブのときのように8名の選手を僕一人でコーチングするのは初めてでした。アジア選手権だったので、これまでの戦歴から『日本は勝って当たり前でしょう』と思っている人も多いだろうなと感じていて、プレッシャーもありました。実際にはインドネシアやフィリピンを筆頭に、他国のレベルが想像以上に高くて。そんな中で自分ができることといえば、やはり選手の能力を最大限に引き出してあげることしかありません。結果として金メダルを3つ獲得できたし、僕の隠れた目標であった『全員がファイナルまで勝ち進む』ということを達成できたのですごく嬉しかったです」
日本サーフィン界の悲願のために
――一方、プロサーファーとしては、鵠沼出身でありながらもビッグウェーブの経験も豊富です。ビッグウェーブに立ち向かうときのマインドはどうやって作っているのでしょうか?
「僕自身はビッグウェーバーだとは思っていなくて。ただハワイの波が好きで、その究極の聖地がノースショア・パイプラインというだけなんです。パイプの波に乗れるようになりたいという気持ちが最初からありました。だからこそ、他のポイントでも大きな波にチャレンジしてきました。もともと怖がりなんですよ(笑)。でも、トレーニングを重ねて、本当に少しずつ大きな波にいけるようになっていきました」
――そんなビッグウェーブに乗る上で、最も気をつけている技術的なポイントは何でしょうか?
「いや、7割はメンタルですね。もちろん道具とかも大事ですけど、この波に乗りたい、あいつには負けたくないっていう気持ちが一番大事です」
――逆にJPSAなどの国内ツアーだと、波が小さいことも多いですよね。そんなときは、鵠沼でサーフィンをしてきた経験も生かせると思いますが、小さい波はそもそも自分の中では得意だと捉えていますか?
「前の方が得意だったかな。他の人よりは小さい波を乗れるっていう自信はあります。ホームスポットの鵠沼は波が小さくて、サーフィンできないくらい小さいときもある。でも、小さい頃は地元から移動できないじゃないですか。だからロングボードもやりつつ、見えないくらい小さいセクションに引っかけるようにして乗るっていうのをひたすらやっていました。大きな波をやるようになってくると、小さい波に対する意欲が減っていっちゃうんですけどね」
――父親の河村正美氏もトッププロで、生まれたときからずっとサーフィンに関わってきています。やはりこれからもサーフィンの発展に関わり続けていくつもりだとは思いますが、今後の目標と、将来のゴールを教えてください。
「いくつかあります。その中でも、僕はセカンドキャリアに入ってきているので、コーチとしての偉業を達成したい。日本からCT(チャンピオンシップツアー)にクオリファイする選手を輩出したいですね。あと、オリンピックのコーチを務めることも一つの目標。連盟から代表のコーチとして呼ばれるというよりは、オリンピックに出場する選手を育てて、その選手に呼ばれてオリンピックのコーチになりたい。もう一つの目標としては、サーフィン自体がスポーツとしてまだまだマイナーで、大会の賞金も低いし、スポンサーもなかなかつかない選手も多いので、サーフィンの認知度を上げたい。もっともっと盛り上げていけたらなと思っています」